現在の仮説実験授業研究で概念調査は重視されていない

 前回前々回のエントリーで述べたように,現在の科学教育研究では,概念研究ベースの研究をもとに,仮説実験授業と同様の予想-実験といったプロセスを踏む教育法が主流になっている。

 概念調査ベースの教育研究では,授業前後に〈生徒・学生たちがどれだけ“正しい科学概念”を身につけているか/つけたか〉を調査するテストを行う。そしてそのスコアを,他の標準的な授業などと比較し,授業の成否を評価する。

 一方,板倉は仮説実験授業提唱後,概念調査的な研究は一切行わなくなった。初期の授業書《ばねと力》では,〈授業後に身についた概念を生徒が使いこなせるようになったか〉についての評価テストを行い,〈伝統的な授業よりも仮説実験授業による授業のほうがすぐれていること〉を示していた。しかし,その後の授業書研究においては,このような方法で授業書の完成度を評価することはしていない。

 仮説実験授業研究会の会員による授業記録でも,もっぱら重視されるのは,「たのしさ」に関するアンケート結果である。「わかったか」についての理解度アンケートは取られないことが多いし,授業後のテストも行ったとしても主に授業書と同じ問題についてである。《ばねと力》提唱時のような,詳細な評価テストがおこなわれることはほとんどない。

 そこで,「仮説実験授業は現場教師に普及してはいるが,研究手法は素人的であり,授業前後のエビデンス評価が不十分である」とし,「海外の概念評価ベースの授業理論に比べてもはや古い」とみなす教育研究者もいるようだ。

 だが,私はそのようには考えていない。

 そもそも,仮説実験授業の目指すものと,現在の科学教育研究の目指すものがまったく違うのだ(つづく)。