コーヒー実験のナゾ?(その7)

 この実験は気泡によるということで間違いないようである。はじめ,コーヒーには溶けやすくするために発泡剤のようなものをまぜている,と聞いたのだが,メーカーに問い合わせたところ,そのようなことはないそうである。粉末の中に含まれている気泡(空気)が原因らしい。

 さらにその後,この実験は,アメリカの物理学者が論文に書いていることを発見した。授業プランの最後では,そのことに言及している。以下に引用しておく。

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 炭酸飲料や入浴剤では,泡が激しく生じているときの音程は低くにぶい音がしています。そして,泡が消えるとともに,もとの澄んだ音の響きが復活していきます。コーヒーをお湯に溶かすときに注意深く観察していると,細かい泡が沢山生じているのがわかります。これが音をこもった低い音にしているのです。

 音はものの振動です。たとえばお寺の鐘は,叩くと鐘が振動して音が出ます。この鐘にひび割れがあると音の振動は鐘のひびを飛び越える事が出来ず,きれいに鳴りません。水中の気泡は,このひび割れと同じ様な働きをするのです。

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 1967年に,カリフォルニア大学で地球物理学,惑星物理学を研究しているファレル,マッケンジー,パーカーの3人は連名で「インスタントコーヒーを混ぜたときにコーヒーカップから生じる音について」と題する論文をケンブリッジ大学の権威ある数理雑誌に投稿しました。
 この論文の中で彼らは,温度の問題,かくはんによる音の変化,水の中で漂う粉末の問題などについても言及しつつ,最終的に気泡に原因を帰しています。おそらくこの3人はしばしば研究で疲れた頭を休めるために,インスタントコーヒーをいれていたのでしょう。そして,あるときたまたま3人の誰かがティースプーンがカップにあたる音が変化するのに気づいたのかも知れません。「いったいどういうわけだ?」物理の研究を仕事としている彼らもとまどったに違いありません。そしてきっと彼らも私たちと同じ様にわくわくしながら実験を進めたのではないでしょうか。

 ところで,この論文を3人が投稿したのは1967年ですが,論文が学会誌に載ったのは1969年です。投稿してから雑誌に載るまで2年もかかったのはなぜでしょうか? 学会誌の編集者もこんな現象はにわかには信じられなかったのかもしれません。それとも,こんなアヤシゲなレポートを権威ある雑誌に載せる事に戸惑いを感じたのでしょうか。この論文には難しい数式も出て来るのですが,最終的な結論はなんと「ビールの泡による音程の変化」を根拠としています。私たちのコーラの実験と同じなのです。

 この実験は物理の専門家でも信じられなかったり,不思議に思ったりするものです。だからこそ,普段は宇宙や地球について複雑な研究をしている学者たちも思わず夢中になってしまったのです。どうです?何だかちょっぴりかしこくなったような気がして来ませんか?
 そんな気がしたらあなたもこんど,両親や友人,恋人にこの〈コーヒー実験のナゾ?〉をやって見てください。                  
                              (おしまい)