『本で床は抜けるのか』

 『書庫を建てる』に続いて,西牟田靖『本で床は抜けるのか』(中公文庫2018,単行本初版2015)を読んだ。

 著者は仕事部屋として借りたアパートの部屋が,大量の本で床が抜けないかと心配になったことをきっかけに様々な蔵書家の事情を調査し,WEB連載した。本書はそれを書籍化したもの。『書庫を建てる』の著者,松原隆一郎も知人の一人として登場する。

 私の師,板倉聖宣も大変な蔵書家で,自宅にはおそらく4万冊以上,さらに新潟県湯之谷の書庫にも数万冊の蔵書があった。全部合わせるとおそらく十万冊は超えているのではないだろうか。板倉の自宅は書庫を設置するために,新築が立つくらいの費用をかけてリノベーションをしたと聞く。その板倉が数年前に亡くなった後,自宅に残した蔵書をどう管理していくのか,我々弟子筋が頭を悩ませている。

 本書で出てくる草森紳一も,大量の蔵書を残して亡くなったが,生前のパートナー,担当編集者,友人知人ら有志によって整理され,最終的に帯広大谷短期大が引き受けてくれたと言う。大変幸せな事例だと思う。一方,板倉聖宣が自宅に大量に残した蔵書をどうするかについては,未だ有効な解決策は見いだせていない。私の勤務先の図書館などに打診しては見たが,「スペースがない」ということで一蹴されてしまった。

 いまのところ,〈国会図書館などでpdf化されていない本を選別したのちにpdf化する〉というのが,最終的な解決策となりそうだ。本書でも電子化の話が出てくるが,著者も述べているように,電子書籍は検索性などの利便性があるものの,本としての質感,手応えと行ったものは圧倒的に劣る。実際,私も一時期溜め込んだ蔵書を数百冊電子化したが,今では後悔している。書い直した本もある。電子化した本は読む気がほとんどしないのだ。したがって,板倉蔵書の電子化は極力避けたいところだが,収蔵スペースのことなどを考えると,一部の書籍を除外して電子化するしか解決策はないかもしれない。

 著者は,最終的に個人的な事情から保管場所の確保が難しくなり,多くの本を電子化するという選択を選ぶ。私自身も,数年後に大学を定年退職すると,研究室や勤務先近くの借家においてある書籍を自宅にもどさねばならない。自宅の本とあわせると,板倉ほどではないがそれなりの量となる。そのときにどうするか。スペース確保と床抜けを避けるために自宅を増改築するか,著者のように,妥協して多くを電子化するか。頭の痛い問題である。