コーヒー実験のナゾ?(その1)

「きのうお父さんにインスタントコーヒーをいれてあげたんだけど,
コーヒーの粉が溶けていくにしたがって,スプーンとカップがぶつかるときに出る金属音の音程がだんだん変化していったの。あれはなんでだろう?」…

1992年,当時理科部の生徒だった綾子さんが発したそんな疑問から,数ヶ月の研究がはじまった。それは試行錯誤の連続であったが,その過程は科学研究そのものであった。その研究過程を追体験する授業プランが,〈コーヒー実験のナゾ?〉である。

ここでは,その授業プランではなく,千葉東高校通信制のスクーリング用資料に連載した文章を掲載することにする(執筆年度1997年)。

当時にならって,数回にわたって連載する。

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(1) みなさんは,科学者というと,どんな人のことをイメージしますか。頭がよくて,知識が豊富,自分とは無縁の世界の人,そんなイメージを抱くかもしれません。

でも,近代科学が生まれた17世紀には,科学者という職業はありませんでした。暇を持て余した貴族たちが道楽として科学研究をしていたの
です。現在では〈科学者〉というと,大学や研究所で給料をもらって研究している人々のことをさすことが普通ですが,職業科学者が生まれる前は,余暇を持て
余した人々がゴルフやテニスに興じるのと同じように,楽しみごととして道楽で研究する人々が科学者だったのです。

では,そんな「道楽としての科学研究」を現代の私たち普通の人々がすることは,不可能でしょうか。「今はプロの科学者がいるので,シロー
トの出番はない」のでしょうか。「そんなことはない」と私は思います。たとえば,数年前に,私は理科部の生徒さんと,こんなたのしい研究をしました。これ
から数回にわたってそれを紹介していきたいと思います。

ある放課後,理科部の綾子さんが,つぶやくようにこんな疑問を口にしました。「きのうお父さんにインスタントコーヒーをいれてあげたんだけど,
コーヒーの粉が溶けていくにしたがって,スプーンとカップがぶつかるときに出る金属音の音程がだんだん変化していったの。あれはなんでだろう?」

私は,即座に「そんなの気のせいだよ。」と答えたのですが,綾子さんは「確かにかわった」と言い張ります。そこで,物理準備室にあったイ
ンスタントコーヒーで実験することにしてみました。インスタントコーヒーの粉末を,カップに注いだお湯に溶かして,スプーンでカップの底をこつこつと叩き
ながらかきまぜて溶かしてみます。
さて,本当に粉末が溶けるにしたがって,カップとスプーンのふれあうときに出る金属音の音程は変化するのでしょうか?

みなさんはどう思いますか。

やっぱり,「気のせい」なんでしょうか?それとも本当に音程が変化するのでしょうか?そうだとしたら,その理由は……

興味を持ってくださったら,みなさんもコーヒーをいれるついでに実験してみてください。

 

(つづく)