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たのしい科学の伝統に立ち返る

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タイムトラベラーは未来から来ているか

      2015/04/05


面白い論文を見つけた。

ロバート・ネミロフ,テレサ・ウィルソン「インターネット上のタイムトラベラーの痕跡に関する調査」(Searching the Internet for evidence of time travelers, arXiv:1312.7128 [physics.pop-ph], 26 Dec 2013)筆者らの所属はミシガン工科大学。2013年12月に受理。


インターネット検索を使ってタイムトラベラーの存在を調査した論文。ただし,arXivというプレプリントサーバーに公開されているものなので,正式な査読審査を受けた論文ではない。

もしタイムトラベラーが未来から来ていたら,彼らが存在を隠していたとしても,なんらかの痕跡がインターネットに残されているはずである。そう考えて,筆者らはインターネット上の痕跡調査を行った。キーワードの選定にあたって基準とされたのは,「ある時点以前では,存在していなかったが,それ以降は頻繁に使用されることになる用語」,そして「未来まで,風化せずに残っている用語」。つまり歴史的なイベントで,そのイベント以前には存在していなかったが,それ以降は有名になる事件。

彼らが選んだ2つのキーワードが,「アイソン彗星」と「フランシスコ教皇」。アイソン彗星が発見されたのは2012年9月21日。フランシスコ教皇が選出されたのは2013年3月16日。

検索対象は,ツイッターおよび,インターネットの検索ログ。彗星の発見や教皇の選出以前に,アイソン彗星やフランシスコ教皇についてつぶやかれていたり,検索されていれば,それはタイムトラベラーによるものの可能性が高い,というわけである。また,アイソン彗星については,Astronomy Picture of the Dayの検索履歴についても調査。

さらに,タイムトラベラーが積極的にその存在をアピールしようとしている可能性も考える。そこで,ツイッターなどで,「もし過去を改変できたとしたら,その証拠に過去にさかのぼってハッシュタグ”#ICanChangeThePast2″をつけてツイートするか,2008年にアカウントを作成したメールアドレスにメールしてほしいとツイッターなどで呼びかた。

結局,どの試みからもタイムトラベラーの存在を示す証拠は確認できなかったそうである。

筆者らは,「これをもってタイムトラベラーが存在しないという証拠にはならない。もしかしたら,物質的なタイムトラベルは不可能であるために,インターネットには痕跡が残されないのかもしれない。または,タイムトラベラーたちは,絶対にその存在を知られてはならないため,慎重にインターネットに痕跡を残さないようにしているのかもしれない」と結論で述べている。

arXivは玉石混交とよく言われるので,まぁこれは「石」なのかもしれないけど,なかなか興味深く読んだ。

でも,この2つのキーワードはちょっと微妙である。この論文の調査が行われた2013年8月頃には,アイソン彗星は史上最大の彗星になる可能性があった。そこで,彼らは未来まで残るキーワードとして選定したのだろう。しかし結局アイソン彗星は,大騒ぎされた割には太陽に最接近する直前(2013年12月)に崩壊してしまい期待外れに終わった。2014年12月の現時点では,もう天文マニア以外,その名はほとんど覚えていないのではないだろうか。

フランシスコ教皇も,キリスト教圏ではかなり名を知られているのかもしれないが,たとえば非キリスト教圏の日本ではそこまで名は浸透していないように思う。少なくとも私にはあまりなじみがない。要するに,筆者らは,タイムトラベラーを英語圏の人間で,しかも自分らと同じような文化的背景をもつ人間しか想定していないのである。未来では覇権が完全に中国に移っていて中国語が標準語になっている可能性だってなくはない。あるいは,未来では宗教は完全に意味を無くしていて,未来人の誰もが教皇の名前なんて関心が無くなっている可能性もある。

でも,こういうことを大まじめに研究して,学術論文として発表するというところが面白い。どこかの査読誌に投稿したのだろうか?リジェクトされたのかもなぁ。

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