事前アンケートを読んで,私は,「この人たちは理系学部出身の人たちより楽しく理科を教える素質がある」と思った。
なぜかというと,私も含めた理系出身者は,大学でつまらない専門教育を受けすぎて,「科学が楽しい」という気持ち,感覚を失っている人が多いからだ。
大学という所は専門家を育てるところである。そこで,そのための訓練が行われ,“楽しい”は二の次にとされる。それはある意味で正しい。
たとえば建築科の卒業生が設計した橋が落ちたら困るし,電気科卒業生が電気回路のことが全くわからないのでは困る。大学は,本人も専門技術・知識を学ぶために来ているのだから,その要望に答える責任がある。
しかし,そういう訓練ばかり受けていると,嫌気がさしてくるのも事実である。以前,運動部が強い高校に勤務した時,全国大会などに出場している生徒の多くがそのスポーツを嫌いになっていて,「大学に行ったら,別のスポーツをやりたい。勝てなくてもいいから,楽しくスポーツをやりたい」と言っていて,「そういうものか」と思ったことがある。
同じように,物理学科や数学科に入学して物理や数学が嫌いになった人を何人も見ている。私自身も物理学科に入って,一時期物理の勉強がいやになった。
それに対して,子供のときに「理科離れ」してしまった人たちは,科学的な基礎知識はなくても,早めに理科から遠ざかったために,理科そのものはそんなに嫌いではないのだ。アンケートの結果がそのことを裏付けていると思えた。
この研修で私にあたえられた時間は1コマである。時間から言っても,仮説実験授業をそのまま紹介するのは無理だろうと思っていたので,大道仮説実験〈ころりん〉をやることにした。まずは彼ら自身に,「たのしい理科の授業」を体験してもらい,「たのしい授業とはどのような授業か」を知ってもらった上で,
・このような授業は特別な名人じゃなくても誰でもできる。
・このプランも,私が考えたものではない。
・仮説実験授業の授業書のようなプランは,古典落語の演目のようなもので,教師はそれを演じる落語家の役割に相当する。自分で演目を考える必要はない。
・すぐれた教師というのは,すぐれたプランを作る能力がある教師ではない。たくさんの演目,つまり模倣すべきプラン(データベース)を持っている教師が優れた教師なのである。
…というような話を配布プリントに基づいておこなって,雑誌『たのしい授業』(仮説社)や,仮説実験授業の文献,楽知ん研究所のウェブページの紹介をすることにした。
(当日配布したプリントはこちら→たのしい理科の授業をどう実現するか)