科学実験機器のルーツ【5】電磁誘導の発見と誘導コイル,発電機の発明

5-1 電流による誘導現象の発見


電気誘導試験器 アトキンソンガノー(1915)p.1005
電気誘導試験器
アトキンソンガノー(1915)p.1005

 磁石が鉄などの強磁性体を引きつけるとき,鉄は磁石になっている。これを磁気誘導という。同じように静電気も,近くにある導体の表面に電荷を生じさせ,導体を引きつける。これは静電誘導という。

 エールステッドの発見は,電流が磁石に影響を及ぼす現象であった。つまり,これは電流によって磁気を誘導する現象だったと言える。そこでファラデーは,電流による電流の誘導,つまり「電流が流れている電線を近づけることによって,別の電線に電流を流す事が出来ないか」と考えた。


 最初ファラデーは,単に電流を流し続けた電線にもう一つの電線を近づけてみたが,思い通りの結果が出なかった。しかし,直線電流の代わりに電磁石を使用して実験を繰り返すうちに,スイッチを入れたり切ったりする瞬間だけ,電流が流れることに気づいた[ref]板倉聖宣『わたしもファラデー』(仮説社2003),pp.124-130[/ref]。

 京大の旧制三高コレクションにも残されている『電気誘導試験器』[ref]永平幸雄・河合葉子編著『近代日本と物理実験機器 京都大学所蔵明治・大正期物理実験機器』(京都大学学術出版会2001)p.217[/ref]は,この原理に基づいている。ライデンびんから電流を流した瞬間だけ,もう一方に誘導電流が流れ,電線を手で持っている人が感電する。
 

5-2 誘導コイル


誘導コイル
誘導コイル
スティール『通俗物理学』(1888)

 このファラデーの発見を応用してできたのが,誘導コイルである。巻き数の異なる二つのコイルを鉄心に巻き付けておき,一方のコイルの電流を変化させると,もう一方に高電圧の電流が発生する。これによって,真空放電の実験が容易に行えるようになった。

5-3 発電機の発明

発電
E.M.アベリー『自然哲学の最初の原理』(1884)p.137

 ファラデーの発見は,〈電線の周りの磁力(磁場)が変化したときだけ電流が流れる〉という,電磁誘導現象の発見であった。この原理に基づけば,磁石をコイルのそばで動かす,あるいはその逆に磁石のそばでコイルを動かせば電流を起こすことができることになり,発電気の発明につながった。

地磁気感応器
「地磁気感応器」ゲージ『物理学の原理』(1897)p.551

 また,地球も巨大な磁石である。そこで,地上でコイルを回転させれば電流を起こすことができる。それを示す実験器が,「地磁気感応器」であり,京大の旧制三高コレクションにもその装置が残されている[ref]前掲永平ら(2001)p.210[/ref][ref]『科学開講!』(LIXIL出版2014)p.48[/ref]。