
雷の正体が電気であることは,フランクリンがその著書『電気の実験と考察』(1751)で主張し,翌年フランスのダリバールが,実際に実験をおこなってその正しさを証明した[ref]板倉聖宣『フランクリン』(仮説社1996)[/ref]。
「〈教会の屋根に設置された鉄製の十字架〉が雷に打たれると磁石になる」という事実は古くから知られていた。だから,もし〈雷の正体が電気である〉ということが事実だとすると,「電気によって鉄を磁化することができる」ということになる。そこでフランクリンは,ライデンびんにためた電気を鉄針に流すことによって鉄針が磁化すると考えた。
このフランクリンの考えは,当時の科学入門書に影響を与えた。たとえばその50年後に発刊された科学啓蒙書オザナム著・ハットン英訳『数学と科学の楽しみごと』(1802)には,フランクリンの誤った説が,そのまま記載されている[ref]この本はフランスで1696年に初版が出版されて以来,異例のロングセラーを重ね,著者のジャック・オザナム(1640-1717)の死後も増補改訂が続けられた。この1802年版はハットンによって大幅に増補され英訳されたもの。[/ref]。
カムストック『自然哲学の体系』(1846)p.338
デンマークのエールステッド(1777-1851)は,大学の授業中に,方位磁石に〈電流を流した電線〉を近づけたところ,方位磁石が思いもしない方向に力を受けることに気づいた。そこで詳しく実験を重ね,方位磁石を動かす力は電流の周りを回転するような方向に働いていることを明らかにした(1820)。

カッケンボス『自然哲学』(1884)p.354
当初,科学者たちはこのエールステッドの発見を,「電流を流した電線自身が磁石になる」ことで説明しようとした。しかし,それではどうしても実験事実とは一致しないことがわかった。フランスのアンペールは,この不思議な力の大きさを数学的な法則として書き表したが,エールステッドの発見を数学的な法則として書き表しただけで,新しい発見をみちびくものではなかった。

スチュアート『基礎物理学のレッスン』(1884)p.347
そんな中,英国のファラデーは,電線のまわりを一周する磁力線のイメージをもとに,水銀に浮かべた磁石が電線の周りを回転する装置を組み立てた。世界最初のモーターである。

アトキンソン英訳『ガノーの物理学』1913,p879
ファラデーは貧しい鍛冶屋の家に生まれ,製本職人の徒弟奉公人だった。王認研究所のデービーにたまたま認められデービーの弟子になり,研究者としての道をひらいた。そんなファラデーは小学校しか出ていなかったので,数学はまったくできなかった。それに対してアンペールや,ビオ,サバールなど大陸の科学者たちは,エールステッドの発見をもとにその現象を数学的に記述しながら,新しい発見を導くことができなかった。ファラデーは,モーターの発明以降,電磁気学における重要な発見を次々とおこなっていた。
数学ができないファラデーがたよりにしたのは,電気力線,磁力線のイメージであった。ファラデーは数学ができないからこそ,イメージ豊かに電気や磁気の力が働く空間(=場)を思い描き,次々と新発見ができたのである[ref]板倉聖宣『わたしもファラデー』(仮説社2003)[/ref]。