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たのしい科学の伝統に立ち返る

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高校での仮説実験授業

      2015/04/05


『たのしい授業カレンダー(たのしい授業臨時増刊号)』(2012年4月,仮説社)に,編集部から依頼されて書いた文章である。執筆時にブログ掲載の許可ももらっていたが,しばらく自主規制していた。2年以上たったので,規制解除する。雑誌には「高校でのたのしい授業」という題で掲載された(pp.107-109)。

もともとの原稿には,小見出しがなかったが,掲載にあたって編集部で小見出しをつけてくれた。また,編集部の要望で,文末に私が高校で実践している定番の授業書を加えていた。

ブログ掲載にあたっては,小見出しの分け方はそのままにし,タイトルは私なりに変更した。また,後で書き加えた「定番の授業書」は割愛した。

高校での仮説実験授業

  • 高校での仮説実験授業の特殊性

高校というところは学校によって千差万別ですが,多くの場合,仮説実験授業をしても,活発な討論はほとんど期待できません。予想の集計も,手を上げてくれる人数が出席者数と一致することはまれです。半数以下になることさえあります。授業中にマンガを読んだり,雑談する生徒が増えることもあります。進学校ではマンガのかわりに英単語の暗記や数学の問題集をやる生徒がいたりします。

さらに,教科書の知識を教えるには仮説実験授業は効率が悪い,と言う人たちもいます。確かに,教科書では数行ですまされていることに仮説実験授業では数時間もかけてしまったりします。ですから高校で仮説実験授業をやると,授業の進度は遅れがちになります。受験指導にも即効性はない,と言われたりもします。

それでもボクの友人には,高校で仮説実験授業をしている人が何人もいるし,ボク自身も含めてみんな教師生活を楽しんでいます。

  • 高校生の感想文はひと味違う

その理由のひとつは,生徒たちの書いてくれる感想文の内容だと思います。みかけは授業を全然楽しんでいるように見えない場合でも,彼らの書く感想を読むと,ちゃんと内容が頭に入っていて,しかもとっても感動していることがわかります。決してそれがおべんちゃらではないことは,読んでみると良く分かります。ちゃんと授業書の狙い通りの概念を獲得した上で授業を楽しんでくれたことが,その文章から伝わってくるのです。

しかも,高校生の感想文は,小学生と比べると内容が豊富で量もあり,教師への感謝なども述べられています。特に女子高生からの感想は感情豊かで,一瞬「ラブレターか」と勘違いしてしまうほどです(もちろん錯覚です)。

「生徒の感想文なんて信用できない」という人もいるようですが,ボクは今までの経験から,むしろ,「授業中の生徒の様子なんて信用できない」と思っています。まじめに授業を受けているように見えても,何にも頭に入っていなかったり,もりあがっているように見えていても冷めていたり,表面上冷淡に見えるのに熱く感動していたり,彼らの内面はなかなか複雑です。

たとえば,ボクが定時制高校に勤務していたとき,授業中は実験室の長い机をベッド代わりにして寝ている生徒がいました。そんな彼が卒業後数年してから,転勤することになったボクをわざわざ訪ねてきてくれました。在学中の様子から,そんなことをするように思えなかった生徒なので驚きましたが,もっと驚いたのは「先生の授業はよかったよ」とわざわざ言いに来てくれたことです。「いつも寝てたじゃん」とボクがいうと,「俺,頭おかしかったよね」などと自嘲しつつも,内容のいくつかを覚えているのでした。

長年仮説実験授業をしていると,時々こういう感動的な体験をします。それが,ボクらが高校で仮説実験授業をやり続けている理由の一つだと思います。

  • ボクが仮説実験授業をやり続けるもっと深い理由

でも,ボクが仮説実験授業をするのはもっと根源的な理由があります。

それは仮説実験授業によって「自分の頭で考えるすばらしさ」を体験することが出来,それによっていわば「主体的にものを考える人間」が育ってしまう,ということです。仮説実験授業の中で,生徒たちは時には間違った概念にとらわれたり混乱したりしながら,やがて感動的に正しい科学概念に到達することができます。「科学概念を身につけた」という結果よりも,この過程こそが重要なのだとボクは思っています。

この,「自分の頭で考えるたのしさ,自信」こそが,彼らが今後人生を切り開いていく上で重要な能力の源になるはずだと思います。教科書を無批判に受け入れる優等生のかわりに,自分の頭で考える人間を仮説実験授業は育てるのです。だから仮説実験授業は時間がかかるのも仕方ありません。

小中学生よりも大人に近い高校生たちは,仮説実験授業のそういった哲学的な側面に気づいてくれる場合も多いように思います。彼らはすぐ大人になりますから,卒業後のつきあいも時々生まれて,彼らの人生に確実に仮説実験授業が影響を及ぼしていることを感じることもあります。

高校での仮説実験授業は,見た目は小学校のように派手な討論があったりするわけではないのですが,大人に近い彼らとつきあう楽しみ,深みといったものがあると,ボクは思っています。

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 - 仮説実験授業, 科学教育研究 ,

Comment

  1. ケンヂ より:

    高校生は大人に成りかけのコドモでもあり、子供の殻を脱皮しようとするオトナでもありますよね。
    そんな揺らぎを見せる生徒たちとの関わりは、冷たくて熱くて涼しくて温かい。そんな気がします。
    塚本さんの周りにいる生徒たちは、微妙ゆえに一生付き合っていくことができる「教え子」でもあります。卒業すれば(正しくは20歳になれば)、お酒を呑んで人生を語り合うことができます。そんな彼ら彼女らが持つ哲学に、大人になる直前に関わることができる喜びは、とても大きいと思います。

    ボクは今、特別支援校の高等部に勤めています。今の支援校は足掛け17年います。
    そして今は、生徒と一緒に走りまくり本気で語り合うことができます。
    そして5年間だけど小学校、8年間いて挫折を感じた中学校。高校は採用試験に落ちて以来、勤める機会に恵まれませんが。
    それぞれの校種にいいところがあります。仮説実験授業とたのしい授業は、それぞれの校種のいいところを発現させてくれる素晴らしいもの・ことであると、塚本さんの論文を読んで改めて思いました。

    薄っぺらな感想でゴメンなさい。

  2. tukapon より:

    ケンヂさん,すばらしい感想をありがとうございます。こういう感想をいただくとブログをやっていて本当に良かったと思います。おっしゃるとおりだと思います。今,高3の担任をしていますが,高1からつきあっていた彼らの成長を感じることが多々あり,胸が熱くなるときがあります。定時制の時も,校内,校外で色々と事件を起こしてくれた生徒が卒業式の時に泣いているのを見て,もらい泣きしました。その生徒は今でも時々,連絡してくれて,たまにお酒を酌み交わします。彼らは「先生は他の教師とは違った」とよく言ってくれますが,そう言ってもらえるのは,仮説実験授業のおかげだと思っています。

  3. 本間友香 より:

    「授業中の生徒の様子なんて信用できない」について。
    私もいつも「楽しいって言ってくれないから、楽しくなかったんだ・・・」と
    肩を落としてやる気を失っている先生にに、
    〝そうじゃないんだよー〟としか言えませんでした。。
    この塚本先生の文章をもとに研修しなおしたい、、、
    と思いました。・・・もう手遅れで、残念 ><。 

    でも、低学年の子どもたちも、その時、その瞬間適切な表現はできず、
    また、教師を喜ばせてくれるような気の利いた感想文もかけず、、、

    ですが、低学年の指導が大好きです。
    高校生がそうであるように、きっと、何かが残ると信じてこれからも向かい合えます!
    ご投稿ありがとうございます(^ ^)

  4. tukapon より:

     本間さん,素敵なコメントありがとうございます。

     ボクの言っていることは,基本的に板倉聖宣先生のおっしゃっていることを元にしているに過ぎません。

     「授業の評価は生徒の感想文で決める」ということも,そもそもは板倉先生がおっしゃっていることです。もし,今後そのような研修をする機会がおありでしたら,ぜひ本家本元の板倉聖宣先生の本を使用していただければ,と思います(^^;)

     仮説実験授業では,感想文を書いてもらう際に「たのしさ」の5段階評価を生徒につけてもらいます。低学年の子でも,5段階評価はできると思います。そうすれば,楽しかったかどうかはわかると思います。言われてみれば,低学年の子たちも,授業中の様子だけじゃ,わかりにくいかもしれませんね。

     ボクも,今まで学校外の講座で,何度も低学年のお子さんを相手にさせていただいてきました。低学年のお子さんたちは,感想を文章では表現できないものの,用紙いっぱいに落書きのような絵で,たのしかった気持ちを表現してくれることが多かったです。そういう感想を見るのも,とっても楽しみでした。

     最初のコメントでケンヂさんが,「それぞれの校種にいいところがある」とおっしゃっているとおりだと思います。低学年の子たちにも,「たのしさ」の経験はきっと残るはずだ,とボクも思っています。

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