なぜか放射線量が高い柏・松戸
福島原発の事故以来,各地で放射線量が話題になっている。
特に私の勤務先がある千葉県柏市や自宅のある千葉県松戸市のあたりは,福島原発から200kmほどの距離にあるにもかかわらず,放射線測定値が異常に高いということで,ネット等では「ホットスポット」などと言われて話題になっている。
私も,事故後から勤務先や自宅で測定を繰り返しているが,この地域では,0.2μSv/hから,高い場所では0.5μSv/hくらいの測定値が出ている(たとえば2011/05/31の測定値で,土の地面から1mで0.410μSv/h)。事故以前の測定はしていないが,たとえば,測定器を借りた科学技術振興財団の各学校の実践報告(http://hakarukun.go.jp/html/boshu.htm)を見ると,東京都の学校における事故以前の測定値は0.03~0.06μSv/hくらいの値である。また,2011/05/20に新宿御苑で私が測定したときの値は0.077μSv/hであった。これらのことからも,柏・松戸地区の現在の値がきわだって高いことがわかる。
北上したら測定値はどうなるか
水面に墨汁を垂らして,ほんの少しかき混ぜて拡散させると,一様に拡散せず中心に近い部分でも色の薄い部分ができたり,逆に離れた箇所に濃い部分
ができたりして,芸術的な模様ができる。原発からある程度離れているところに放射線量が高い地域ができるのは,ちょうどこの墨流しと同じようなことだと私
はイメージしている。私の住む地域はちょうどこの濃い部分にあたってしまったということではないだろうか。
柏の値が高いことが知られるようになったのは,東大柏キャンパスがあって,そこでの測定値が高いことによるらしい。他の地域でもおそらく高いところはあるのだろうが,測定されていないだけかもしれない。
もし,柏から放射線を測定しながら原発付近のいけるところまで北上した場合,どのような変化をするだろうか。おそらく少しの間は測定値が下がり続
けて,その後上昇に転ずるのではないかと思う。その変化は一様だろうか。それとも途中で突然上昇したり,下降したりするのだろうか。途中に別のホットス
ポットのようなところはないのだろうか。
そのようなことが気になって,いつも研究を手伝ってくれている池田佳代さんとともに,日帰りの放射線測定ツアーなるものを企画した。実施したのは2011/06/06(月)。平日ではあったが勤務先は代休の日であった。出発点は柏ではなく,私の自宅のある松戸からとした。近くのインターから高速に乗ってしまうため,この日は柏では測定しないことにした。
測定器は科学技術振興財団から借りたはかるくんCP-100。γ線エネルギー補正つきで比較的正確な値が測定できる。地上1mで,1分以上の測定
を行った。測定結果はリアルタイムでツイッターに流した。そのログはhttp://twilog.org/tsukap0n/date-110606で見
ることができる。
往路
松戸出発の時の測定値が0.229μSv/h。柏を車内で移動中の測定で一瞬0.290μSv/hを記録した後,どんどん下がり続けて,その後ほぼ横ばいであった。松戸・柏がホットスポットであることがこのことからもわかる。
茨城県に入ると値は下がり続け,原子力発電所のある東海村あたりでは0.1μSv以下を記録した。このまま茨城県は低い値のままかと思ったのだ
が,福島県との境に近づくにつれて上昇。福島県に入って最初のPA,湯ノ岳では,松戸より高い0.371μSv/hを記録した。高速を降りて,福島第一原
発から9kmほどの広野火力発電所のあたりになると急上昇。1.157μSv/h。ついに1μSv/hを越えた。さすがにこれだけ近づくと柏の比ではな
い。
その少し先でとうとう立ち入り禁止の看板。楢葉町入口で 1.127μSv/hであった。池田さんが作成した往路のグラフを見ると原発から50km圏に入ったあたり(ちょうど福島県境を超えたあたり)から急上昇していることがわかる。
震災の爪痕
この往路,常磐道は平日ということもあり,空いていたが,通行する多くの車は自衛隊や消防庁の災害派遣車であった。立ち入り禁止の境界では多くの
車がひっきりなしに出入りしていたのが印象的であった。また,帰路高速入り口に向かう道すがら,少し道を外れて海沿いに近づくと,津波にのみ込まれてめ
ちゃくちゃになっている家や津波に流された車などが放置されており,震災の爪痕のすさまじさに胸が痛くなった。単なる物見遊山で立ち寄っている自分が申し
訳なく思われ,かといって何かできることがあるわけでもなく,早々に
立ち去った。
復路
復路は同じ道を通らず磐越から東北道に抜ける道をとってみた。同じように50kmで急下降するのかと思いきや,意外なことに福島県を出て栃木県黒磯あたりでも0.439μSv/hと柏並みの値を記録した。しかしそれ以降はどんどん値が下がり続けて,蓮田SAでは0.058μSv/hと事故前とあま
りかわらないのだろうと思える値にまで落ち着いた。しかし,松戸に戻ると,0.222μSv/hとまた跳ね上がったのであった。
原発近くの値は柏の比ではない
松戸・柏の放射線量については,いろいろと騒がれているが,実は栃木県北部や福島県阿武隈あたりでは,柏より高い線量が今回のツアーでは測定され
た。池田さんによると,彼女の親戚のいる福島市東部の庭では,地上1mのところで線量が3μSv/hを超えていて,家の中でさえ,柏よ
り高い0.5μSv/hらしい。
だからといって,これを根拠に柏や松戸は安全だという気はさらさらない。逆にこれだけ広範囲が放射線で汚染されているという事実は,やはり深刻に
受け止めねばならない。ただし健康被害については,低放射線被曝に関するデータがほとんどない以上,安全か危険かについて議論しても意味はない。実験ので
きない議論は時間の空費であるので,各自が判断して行動するしかない。私個人としては全く気にしていない。もし仮に多少がんのリスクが高まるとしても(そ
れも疑わしいと思っているが),医療技術の進歩によって打ち消されてしまうだろうと思っている。
文科省による放射線量マップ
ところで放射線測定値についてはその後,文部科学省から福島第1原発の80キロ以遠の放射線マップが公表された(6月16日)。
これを見ると,今回の我々の測定値とほぼ一致している。この範囲をもっと広げて,300km圏内の地図なども見てみたいものである。墨流しの模様みたいになるのだろうか。